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「インド哲学とは何か ― ヨーガ哲学はその一部です」

ヨーガと哲学をめぐる誤解

「ヨーガを学びたい」と見える方々、「哲学を学びたい」とおっしゃる方々がいらっしゃいます。
話していると、多くの方が次のように考えておられることに気づきます。

  • 『バガヴァッド・ギーター』をヨーガ哲学だと思っている
  • 『ヨーガ・スートラ』のヤマ・ニヤマだけを哲学だと思っている
  • ヒンドゥー教の宗教的な儀式もヨーガだと思っている

このような誤解が多いため、少し整理をしてお話ししたいと思います。

「インド哲学」とは?

まず最初に明確にしておきたいのは、
インド哲学は“神を信仰する学問”ではないということです。

「哲学(Darśana)」とは、サンスクリット語で「見る」「観る」を意味し、
真理・実在・意識・宇宙の原理を理論的に探究する体系を指します。
信仰ではなく、論理と実践によって“悟り”や“解脱”の原理を明らかにしようとする学問体系がインド哲学です。

正統派6学派

インド哲学とは、**紀元前後から5世紀頃にかけて体系化された「インド哲学六派(正統派学派)」**を指します。

これらは、それ以前のヴェーダ時代の祭祀的信念から、ウパニシャッドを経て最高原理の探求へと展開した理論体系です。
また、**非正統派3学派(ジャイナ教、仏教、唯物論)**もインド哲学に含まれます。
(正統派と非正統派の違いについてはここでは割愛します。)

<正統派6学派>

  1. ヴェーダンタ
  2. ミーマーンサー
  3. ニヤーヤ
  4. ヴァイシェーシカ
  5. サーンキャ
  6. ヨーガ

これらは2つずつが理論と実践の対になっています。
たとえば、サーンキャ学派は理論、ヨーガ学派は実践です。

よって、ヨーガの理論面はサーンキャ哲学、
サーンキャ哲学の実践面はヨーガ、という関係になります。

学派ごとの根本経典

これらの6学派には、それぞれ根本経典があります。
各学派を学ぶということは、その経典を学ぶことを意味します。

  • ヨーガ学派:パタンジャリの『ヨーガ・スートラ』
  • サーンキャ学派:カピラの『サーンキャ・スートラ』(現存せず)
     → 現在はイーシュヴァラ・クリシュナの『サーンキャ・カーリカ』が経典とされています。

ヨーガの道に入る場合、まずこの2つの経典がベースとなります。
特に『ヨーガ・スートラ』はヨーガを定義し、原理原則から最終ゴールまでを、
最小限の言葉で最大の知識として凝縮した書です。

『ヨーガ・スートラ』の特徴

『ヨーガ・スートラ』は、ヨーガを学ぶ者・実践する者にとって欠かせない経典です。
ヨーガのコンセプトや定義、ゴールを示しており、詳細な技法や方法は述べていません。
たとえば「アーサナとはどんな種類の坐法か?」「どのような手順で行うか?」といった説明はありません。

述べられているのは、原理原則的な定義・方法・作用のみ。
そして最も重要なテーマは、「心をいかに制御するか」。
すなわち、瞑想の原理について語っています。
(心とは、心の性質、心を制御する方法、心の終着点などが詳述されています。)

『バガヴァッド・ギーター』について

『バガヴァッド・ギーター』は六派哲学の中ではヴェーダンタ学派の重要な経典であり、
現在インドで信仰される**ヒンドゥー教の三大聖典(プラスターナトライ)**のひとつです。

正確な三聖典は以下の通りです。

  • ウパニシャッド(Śruti-prasthāna)
  • ブラフマ・スートラ(Nyāya-prasthāna)
  • バガヴァッド・ギーター(Smṛti-prasthāna)

この経典は、世俗の苦しみの中で「どう生きるか」をクリシュナがアルジュナに説く形で語られています。
よって、ヒンドゥー教の聖典のひとつとして位置づけられます。

この中にも「ヨーガ」について語られており、
第2章には有名なヨーガの定義が2つ述べられています。

また、次の3つのヨーガが説かれています。

  • ジュニャーナ・ヨーガ(知識のヨーガ)
  • カルマ・ヨーガ(行為のヨーガ)
  • バクティ・ヨーガ(信愛のヨーガ)

これらはヒンドゥー教徒にとって**「生き方としてのヨーガ」**とされ、
特にバクティ・ヨーガが重視されています。

学ぶ順序と立ち位置

よって、『バガヴァッド・ギーター』はヨーガを含みますが、
ヒンドゥー教の宗教実践としての位置づけになります。

ヨーガを哲学として純粋に学ぶ場合は、何よりもまず
パタンジャリの『ヨーガ・スートラ』を学ぶことが基本です。


インドの人々はヒンドゥー教徒であるため矛盾はありません。
ヒンドゥー教の信仰と哲学的学びが生活の中で一体になっているからです。
一方、信仰を前提とせずにヨーガを学ぶ私たちにとっては、
その理論(サーンキャ)と実践(ヨーガ)をあわせて理解することが、より自然な学びの流れとなります。

筆者の学びの経緯

私自身も、10年前にヨーガの師からこのことを教わりました。
インド思想史を専門とする日本の大学の先生からも学び、
昨年はカイヴァルヤダーマ・ヨーガ研究所付属カレッジのディプロマコースに
9か月間留学しました。

その学びを通じて、インド哲学の体系とその区分けが明確に理解できるようになりました。

まとめ:ヨーガを学ぶ方へ

ヨーガを実践する者にとって、『ヨーガ・スートラ』は絶対的な土台です。
この原則に基づいて、私たちの実習・実践は進んでいきます。

ヨーガを学ぶ = ヨーガ・スートラを学ぶ
ヨーガを実践する = ヨーガ・スートラを土台に行う

したがって、ヨーガの道に進む人は、
インド哲学を学ぶならまずヨーガ哲学から始めましょう。

ただし、ヨーガは「頭の中の知識の世界」ではなく「実践の道」です。
読んで理解するだけでなく、実践を通じて理解が深まっていくものです。
その道のりは長くても、ヨーガを志す者は歩みを進めていくのです。

東京ヨーガセンターでは、ヨーガスートラが土台となったヨーガの学び、実践へとつながっていきます。
理論と実習を重ねながら、少しずつ理解を深め、実践を通して経験していく。
このバランスの取れた学びこそが、ヨーガの真の価値をもたらし、目的へと導いてくれます。

次回予告

次回はもう一つの誤解、
「ヤマ・ニヤマだけがインド哲学だと思われている」についてお話しします。

(羽成ちあき記)

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